内容紹介
幼い頃、近所のにいちゃんに手を出され、現場を母親に見られてしまったゆい。それを境に、いつも遊び相手になってくれていたにいちゃんは姿を消し、親からは過保護なまでの監視を受けるようになってしまった。あれから時が経ち、にいちゃんを忘れられないゆいは、ある日もあてもなく街を徘徊し、そして、ついに再会の日がくる――。しかし、久しぶりに会ったにいちゃんは、昔のような優しいにいちゃんではなくなっていて……。ふつうってなに まともってなに これはいけないこと…?BL界の鬼才・はらだが描く衝撃の禁断愛、ついに解禁――。
【にいちゃん】みどころと感想【ネタバレ注意】
はらださんの作品『にいちゃん』の感想になります。こちら表紙もそうなんですけど・・・表紙から受ける印象そのままのストーリーなんじゃないでしょうか・・・。途中怖かったです。
コワイというのも病みがすごくてちょっとひえってなります。この作品は読み手を選ぶと思うのですよね。
はらださんはわりと心の病みをいうか一筋縄ではいかないような、そんな作品を描かれることが多いと思います。病み系が苦手な私だとはらださんの作品でも読むモノを選んだりするんですが・・・(じゃっかん苦手意識があるのは確かです)雑誌掲載時から気になってたこちらをとうとう購入してしまいました。
ということで、病み系に苦手意識をもった人が読んだ感想ということで読んでいただけたらうれしいなぁと思っています。
あと、こちらの作品は幼児に対する性的ないたずらをするような描写がありますので、そういうのは無理!という方は読まない方がいいかと思います。
私はこういうのはアクマで作品として読んでいます。
登場人物
けい(にいちゃん)
ゆいに性的ないたずらをしようとしていたが、自身も幼少期に大人と関係を持っていた。親がコワイ。
ゆい
にいちゃんから受けた性的なものが忘れられず探していた。一途な性格だが自己中だったりもする。親やまわりには良い子の自分を演じているところがある
まいこ
にいちゃんと関係を持っていた男の娘。にいちゃんを嫌っている。一時ゆいと付き合っていた。ゆいには仲間意識のようなモノをもっていている。
※けい・ゆいはリバ展開になりますのであえて攻・受と記載していません。リバが地雷な方はご注意を。以下感想です。
『にいちゃん』はここに注目して読みました
この作品、にいちゃんも怖いけれど読み進めるとゆいの執着の方が徐々に怖くなっていきます。
しかし・・・にいちゃんがゆいに興味を持っているのは冒頭からわかるのですが、言葉巧みな感じですごく自然に引き込んでいくんですよね。子供だから純粋なところもあるのでしょうが・・・。
子供だからこその興味につけ込んでいるのがすごい。
そしてゆいにいたずらをした事がバレた『にいちゃん』は、引っ越しをしてしまいます。でも・・・ゆいの中にはしっかりとにいちゃんの存在は残ってて彼を求めてしまうのですね。
ここからが逆パターンになってて、作品としてすごいなぁと思うのは一方的な展開ではないというところ。
にいちゃんも歪んでいるけれど、同じようにゆいも歪みがあるのだというのが読んでいくとわかるの。そしてその歪みに大きく関与しているのは『親』だということ。
途中、ゆいに彼女ができるのですが彼女もまたにいちゃん・ゆい同様に『親』によって歪みが生じてしまったひとりだと思う。
皆がみな歪な闇を抱えているという点は読み応えあったし、はらださんだなぁと思わされました。
ただ・・・最後の最後は・・・正直いらなかったなぁ。(とことんはらだ作品だなと感心したけれども!)少し救いが欲しかった気がします。
ハッピークソライフ
逃げたはずなのに依存・執着する心理とは
なんでしょうね、不思議な展開なのですよね。子供の頃にいちゃんにいたずらをされたゆいは、その時は怖くて逃げるの。
そして親に見つかってしまい、にいちゃんは引っ越し。ゆいの両親は過保護になってしまいます。
でもゆいの中では、またにいちゃんにそういうことをされたいという欲望が生まれていくのですよね。。。どこへ出かけてもにいちゃんを探してしまいます。
そして再会してからは、ゆいは酷いことをされても『依存』というか『執着』しているかのよう。
一緒にいたときの楽しさが残っているからなのか、優しいにいちゃんが残っているのか・・・そういう依存を生んでしまったのも、個人的にはゆいの両親が関係しているのかなと思いました。
以前は共働きでゆいはずっとにいちゃんが遊び相手だったのですよね。
インスタントラーメンの方がお母さんの料理よりおいしい、家にいてもつまんない、学校もつまんない。
そんなゆいの唯一の楽しい場所がにいちゃんの部屋。そういう思い出が嫌な記憶よりも勝っていたとうのも執着してしまった理由なのかもしれない。
にいちゃんが引っ越ししてからも「もしあの時受け入れていれば、今でもにいちゃんとそういう関係を続けていたかも知れない」と後悔しているとありますし・・・なかなか理解しがたい部分ではあるのですが、こういう心理描写は興味深いかもしれないなと思いながら読みました。
もう絶対逃げない
再会した時、ゆいの方からにいちゃんと関係を持つことをお願いします。
そしてにいちゃんは言うの。「やっと受け入れてくれてうれしいよ」と。
あの時逃げてごめんなさいとゆいが言えば「許さないよ」「もう俺から逃げない?」「俺のものになる?」と確認をしていきます。。。ゆいは「うんうん」と返事をし「もう絶対逃げたりしない」と誓うのですね。
この言葉はまた改めて出てくるので、気に留めて読んでいくと面白いかと思います。
まわりが「普通」を求めても抗いたい
中盤、舞子ちゃんという彼女がゆいにはできます。
親は「彼女ができた」と言えば喜ぶのですが、ゆいにとっては「普通の男子高校生みたいで好きだろ 彼女の存在とか」なんですよね・・・。
親を心配させないようにまわりに合わせて気に入られようとする自分と、抗ってでも欲を通したいと思う自分と、ゆいの中には2通りあるのだと読んでいて思いました。
ゆいはにいちゃんと、家族やまわりとの間で結構揺れているんですよね。
そんなゆいの相談相手になんと舞子がなっていくというびっくり展開。
舞子は清純そうな感じで登場してきましたが実は訳あり。
この子もまた、親によって人生が変わってしまった子でした。人生観も変わっているのか、ゆいのコトもわりと受け入れていてよき相談相手の舞子はわりと好きでした。
なのですが・・世間て狭いですねぇ。にいちゃんと舞子も繋がりがあったという・・・。
カラーレシピ(上)
立場逆転
いやぁ・・・こういう所がはらださんですよね。にいちゃんにやられっぱなしじゃない。ゆいのターン!!!
冒頭の部分が読むことが出来れば、その後はずっとゆいとにいちゃんの依存しあうようなストーリーなのでまだ大丈夫かと。
でも個人的にはこのゆいのターンはゾクゾクしました。
どうしてにいちゃんが幼い頃いたずらをされようとしたのかをゆいは理解するの。
それはまいこちゃんがきっかけで知ることになるのですが、にいちゃんの闇でもあったりします。
にいちゃんもまた、幼少期に大人と関係を持っていたんです。その相手が舞子の父だったという・・・・。どひゃ~な展開でした(^_^;)
自分がされてきたことをゆいにして、ゆいの中に幼い頃の自分を重ねていたという。
今までゆいがにいちゃんと行ってきた行為はすべて・・自分が舞子の父とやってきたコトだったのもまた衝撃的でした。
それでもゆいは、にいちゃんに愛されたくて仕方が無いの。
にいちゃんが「おじさん」にされてたように愛されたいんじゃないのかな、という舞子の言葉で・・・ゆいとにいちゃんの立場が逆転したのにもびっくりしました。
そう・・リバ展開。
「にいちゃん 今からあんたを抱く」というゆいのセリフ・・・今までかわいい男の子みたいだったけど「男」を感じたなぁ・・・こういう描写もすごいなって思う。
愛した人から逃げられて、周りから全否定され追い詰められていったにいちゃんを、今から自分が「愛してあげる」という・・・
それがゆいなりの「愛の証明」。
にいちゃんの苦しさ
にいちゃんに対しては中盤まではやや嫌悪感は抱くものの・・・どうしてにいちゃんが今に至るのかを描いているというのは、すごく評価できると思いました。
にいちゃんの闇・・・やっぱり母親だったりまわりだったりするのですね。
おじさんとの関係が「どうしていけないの」という疑問をだれも解決してくれなかったというのもあるのですよね。
認めてくれる人が誰一人もいなくて、にいちゃんを待っていたのは好奇な目にさらされるということと、母親からの矯正。
自分と同じ誰かを作りたい・・・そんな心理が働いても不思議じゃないと思わされたエピソードでした。
ワンルームエンジェル
自分を認めて欲しい
にいちゃんもゆいも根底にはこの気持ちが強かったんだと思います。認めて欲しい愛して欲しい。
だけどね、自分を理解し認めてくれるゆいから・・・にいちゃんは逃げるの。
これは母親がすごく関係しているのですが、にいちゃんもまた母親の言うように「まっとうな人間」になるために努力はしようとします。
リンクしていくんですよね段々とにいちゃんの時とゆいが。
にいちゃんはおじさんに捨てられ、そしてそんなにいちゃんは今ゆいを捨てようとしている。
でも違うのはゆいがもうある程度大きいという点。
「おじさんと同じ事しないで」「逃げないで待ってるから全部捨てて俺んとこきてよ」と。
「にいちゃんのこと許して理解できるのは世界で、唯一俺しかいないよ」
そんなゆいを振り払って自宅に戻ったにいちゃんがね・・なんだかすごく不憫でした。
「普通」ってなんだろう?そう思わされる箇所でもありましたね。
責任をとるよ
自宅に戻った時、舞子の父親「おじさん」に会いにいったにいちゃんは・・・おじさんが新しく家庭を築いて幸せそうに暮らしているのを目撃します。
そして話しかけても自分のコトを思い出しもしなかった。
これがきっかけで、自分がしてきたことって何だったんだろう?って振り返ります。
そしてゆいに自分を重ね、同じように引きずり下ろして何を得たかったのかもわからなくなってしまいます。。
「責任とるよ」って言うのは自分と重ねてきたゆいに、自分と同じ気持ちを味わって欲しくないというにいちゃんなりの気持ちもあったのかなって思いました。
「おまえしかいないって思い知った」「俺を許して」「俺を選んで」と。
全部にいちゃんが出来なかった、してもらえなかったコトだと思います。
「もう絶対逃げたりしない」と同じセリフをにいちゃんが次はゆいに言っているというのもおぉ~すごいなぁそうくるかぁ・・・と思いました。
描き下ろし
甘々でいいじゃない!と思ったけれど・・・やっぱりはらださんでしたね。最初読んだ時にはここはいらないんじゃない???と思ったけれどどうしても口で言っていることと行動がちぐはぐなゆいがね・・・・・。
最後まで一環して描かれていたなと思います。
「一般」に迎合しながら病んでいく姿はあまり気持ちの良いものではないけれど・・・もはやゆいはどっちを演じているのかさえわからなくなってきているのではなかろうか。
にいちゃんの言っているコトとか行動も、急に幸せオーラ全開!展開じゃない分やけにリアルで怖かった。
この2人の幸せな未来が・・・う~想像できなかったヨ(T^T)
漫画なんだから2人ともむちゃくちゃ幸せにしてあげてよ・・・ってそんな気持ちが生まれました。
にいちゃん/感想まとめ
ほんとこれは読む人を選ぶ作品だと思います。苦手な人も絶対いるはず。
私もこんな感じのストーリーは苦手なのですが、状況が人を変えながらリンクしていく展開は面白く読めました。
「逆転」場面・・・ゾクゾクしましたよ。
ただ、根本的なモノが解決していないから2人とも病んだままなのですよね。
両親から認められない、自分自身を受け入れて欲しい・・・はっきり変われないと言って家を出たにいちゃんと違い、ゆいはまだ仮面を被ってるのもなんだか面白い。
すべて捨てて自分のところに来てって言ってたのに、ゆいはなにひとつ捨てられていないんですよね。。。
読めば読むほど不思議なストーリーです。
内容が内容なのでオススメ!!!とは言えないのですが、色々と考える作品。
あ~でもやっぱり最後は少しでも希望を見せて欲しかった・・・。ちょっと後味悪いなぁと病み系苦手な私は思いました。。。
にいちゃん/電子書籍
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